みなさん、こんにちは。
田中宏明と申します。
関西の建設現場で25年間、現場監督として数々のプロジェクトに携わってまいりました。
バブル期の建設ラッシュから平成不況、そして東日本大震災の復興現場まで、この業界の激動を最前線で体験してきた一人として、今日は建設プロジェクトを成功に導く「5つの鉄則」をお伝えしたいと思います。
これまで見てきた成功と失敗の現場から学んだ、現場の真実をお話しします。
机上の理論やきれいごとやなくて、ほんまに現場で役立つ話をしますから、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
特に若手の現場監督の方々には、「現場の匂い」を感じていただけるような内容にしました。
第一の鉄則:チームワークこそが現場の命綱
職人さんとの信頼関係の築き方
現場で一番大切なのは、やっぱり人と人との関係です。
25年やってきて痛感するのは、職人さんとの信頼関係なしには、どんな立派な図面があっても、どんな最新の機械があっても、良い建物は建たないということです。
職人さんは、それぞれが技術に誇りを持って仕事をしています。
その誇りを理解し、尊重することから全てが始まります。
私がいつも心がけているのは、「教えてもらう」という姿勢です。
現場監督だからといって、上から目線で指示を出すのではなく、職人さんの長年の経験と技術を尊重し、「この部分はどうしたら一番良い仕上がりになりますか?」と相談するんです。
そうすると、職人さんも「この監督は分かってくれている」と感じて、積極的に協力してくれるようになります。
信頼関係は一日で築けるものやありません。
毎日の積み重ねが大切です。
年代の違う作業員をまとめる技術
現場には20代の若手から60代のベテランまで、幅広い年代の作業員が集まります。
それぞれ考え方も働き方も違います。
若手は新しい技術に興味を示すけれど、ベテランは昔ながらのやり方を大切にする。
この違いを理解して、それぞれの良さを活かすのが現場監督の腕の見せ所です。
例えば、新しい施工方法を導入するときは、まずベテランの職人さんに相談します。
「こんな方法があるんですが、現場的にはどうでしょうか?」と。
ベテランの意見を聞いて、現場に合わせて調整した上で、若手に教えてもらう。
そうすることで、ベテランは自分の経験が活かされていると感じ、若手は新しい技術を学べる。
みんなが納得して、同じ方向を向いて仕事ができるんです。
「現場の空気」を読む重要性
現場には「空気」があります。
調子の良いときと悪いときの違いは、歩いて回っているだけで分かるものです。
職人さんの表情、作業のテンポ、休憩時間の会話の内容。
全部が現場の状況を教えてくれます。
何かおかしいなと感じたら、すぐに声をかけます。
「お疲れさまです。調子はどうですか?」って。
小さな不満や不安が積み重なって大きなトラブルになる前に、早めに対処することが大切です。
朝礼での声かけが変える一日の流れ
毎朝の朝礼は、現場の空気を作る大切な時間です。
私は朝礼で必ず、その日の天気、作業内容、安全のポイントに加えて、前日の良かった点を伝えるようにしています。
「昨日の配筋、きれいに仕上がってましたね」
「段取りがスムーズで、予定より早く進みました」
こんな風に、具体的にほめることで、職人さんのモチベーションが上がります。
一日の始まりの5分が、その日一日の現場の空気を決めるんです。
第二の鉄則:安全管理は妥協なき徹底から
「ゼロ災害」への道のりと現実
建設現場において、安全管理は最優先事項です。
どんなに工期が厳しくても、どんなにコストを削減しろと言われても、安全だけは絶対に妥協してはいけません。
私は25年間で、幸い死亡事故に遭遇したことはありませんが、ヒヤリとする場面は数え切れないほど経験しています。
建設現場では高所作業や建設機械を扱う危険性の高い業務を行うため、ケガや死亡事故が起きる可能性があります。建設工事は無事故で終えることを最優先するため、施工管理の中で一番重要な業務といっても過言ではありません。
「ゼロ災害」は理想ですが、現実的には完璧を目指しながらも、万が一に備えた対策が必要です。
- 毎日の安全点検の徹底
- 危険予知活動(KYK)の実施
- 作業員全員への安全教育
- 安全設備の適切な設置と維持
これらを地道に続けることで、事故のリスクを最小限に抑えることができます。
ヒヤリハットを宝物に変える発想
現場でよく言うのは、「ヒヤリハットは宝物や」ということです。
小さな「ヒヤリ」や「ハッと」する瞬間を軽視せず、必ず報告してもらい、みんなで共有します。
「今日、足場の手すりにつまずきそうになった」
「クレーンの下を通るとき、風で荷物が揺れて怖かった」
こんな小さなことでも、改善のヒントになります。
足場の手すりの高さを調整したり、風の強い日のクレーン作業の手順を見直したり。
一つひとつの改善が、大きな事故を防ぐことにつながるんです。
家族の顔を思い浮かべる安全意識
安全管理で一番大切なのは、作業員一人ひとりの意識です。
私がよく職人さんに言うのは、「家族の顔を思い浮かべて作業してください」ということです。
お父さんやったら奥さんと子どもの顔を、若い人やったら両親の顔を思い浮かべる。
「今日も無事に家に帰る」という強い気持ちが、一番の安全対策になります。
震災復興現場で学んだ命の重さ
東日本大震災の復興工事に参加したとき、被災された方々の話を聞く機会がありました。
「家族と過ごせる普通の日常がどれだけ大切か」ということを、改めて教えられました。
それ以来、現場での安全管理に対する考え方が変わりました。
事故は、本人だけやなく、家族、同僚、会社、そして建設業界全体に影響を与えます。
一つの事故が、多くの人の人生を変えてしまう。
だからこそ、安全管理に妥協は許されないんです。
第三の鉄則:品質は「人の心」で決まる
図面通りだけでは生まれない本当の品質
図面や仕様書に書かれていることを守るのは当たり前です。
でも、本当に良い建物を作るためには、それだけでは足りません。
図面には書けない部分、数値では表せない部分にこそ、職人さんの技術と心意気が現れます。
例えば、コンクリートの打設一つとっても、温度や湿度、風の状況を考慮して、最適なタイミングで作業を行う。
配筋の継手部分を、図面以上にきれいに仕上げる。
こういう「ひと手間」が、建物の品質を大きく左右するんです。
職人魂を引き出すコミュニケーション
職人さんは、自分の技術を認めてもらえると、驚くほど良い仕事をしてくれます。
「さすがやなあ、この仕上がりは」
「お客さんもきっと喜んでくれますよ」
こんな言葉一つで、職人さんの表情がパッと明るくなります。
そして、次の作業でもっと良いものを作ろうという気持ちになってくれる。
品質管理は数値やチェックシートだけやなく、人の心を動かすコミュニケーションが鍵になります。
完成後に「誇れる建物」を作る意識
工事が完了して、建物を見上げたとき、「ええ建物ができた」と心から思えるかどうか。
これが一番大切な品質の基準です。
施主さんに喜んでもらえる建物、地域の人に愛される建物、そして何十年後も安心して使える建物。
そんな建物を作るためには、現場監督から職人さんまで、みんなが同じ気持ちで取り組むことが必要です。
バブル期の粗製乱造から学んだ教訓
バブル期には、とにかく早く、とにかく安く建てることが求められました。
品質よりもスピード、職人さんの技術よりも効率性。
結果的に、手抜き工事や欠陥住宅の問題が後を絶ちませんでした。
あの時代の反省から学んだのは、「急がば回れ」の精神です。
目先の利益や工期短縮にとらわれず、長期的な視点で品質を確保することの大切さを痛感しました。
良い品質は、結果的にクレームを減らし、会社の信頼性を高め、継続的な受注につながります。
第四の鉄則:工程管理は「人間関係管理」
天候に左右されない現場づくりの知恵
建設工事は屋外作業が中心ですから、天候の影響を受けやすいものです。
でも、雨が降ったからといって、すべての作業を止めてしまうのは賢明やありません。
大切なのは、天候に応じた作業の段取りを事前に考えておくことです。
雨の日でもできる内装工事、台風の前にやっておくべき安全対策、暑い夏の日の作業時間の調整。
こういった準備をしておくことで、工程の遅れを最小限に抑えることができます。
また、職人さんの収入にも配慮が必要です。
雨で作業が止まると、日当制の職人さんは収入が減ってしまいます。
できるだけ別の作業を用意したり、次の晴れた日に効率よく進められるよう段取りを調整したりする心配りが大切です。
下請け業者との Win-Win な関係構築
建設プロジェクトは、元請け、下請け、孫請けと、多くの業者が協力して進めるものです。
各業者が利益を確保できて、やりがいを感じられる関係を築くことが、工程管理の基本です。
下請け業者に無理な工期や価格を押し付けるのではなく、現実的なスケジュールと適正な単価で発注する。
困ったときはお互い様の精神で、助け合える関係を築く。
そうすることで、急な工程変更があっても、みんなで協力して乗り切ることができます。
予想外のトラブルを乗り切る現場力
建設現場では、必ずと言っていいほど予想外のトラブルが発生します。
地中から予期しない埋設物が出てきた、隣接建物からクレームが入った、資材の納期が遅れた。
こんなとき大切なのは、慌てずに冷静に対処することです。
まず、関係者全員に正確な情報を伝える。
次に、対策案を複数考えて、最適な方法を選択する。
そして、変更された工程を関係者全員で共有する。
この一連の流れを素早く、的確に行うことが現場力です。
平成不況時代のピンチをチャンスに変えた話
平成不況の時代、建設業界は非常に厳しい状況でした。
工事の発注は減り、価格競争は激化し、多くの業者が廃業に追い込まれました。
そんな中、私たちの現場では「ピンチをチャンスに変える」を合言葉に、効率化と品質向上に取り組みました。
無駄な作業を見直し、新しい工法を積極的に取り入れ、職人さんのスキルアップを支援する。
結果的に、厳しい予算の中でも高品質な建物を完成させることができ、施主さんからの信頼を得ることができました。
困難な時代だからこそ、現場の結束力が試されるんです。
第五の鉄則:デジタル時代でも変わらない「現場の基本」
新技術と職人技術の融合点
最近の建設現場では、ドローンやAI、IoTといった新しい技術が導入されています。
建設業は危険を伴う作業も多く含まれますが、現場でドローンやロボットなどを活用することで、作業の安全性を大幅に向上させることができます。特に、点検、測量、配送といった業務において、効果的な活用が期待されます。
私も最初は「機械に頼ってばかりで大丈夫なんかな」と心配していました。
でも、実際に使ってみると、新技術は職人さんの技術を置き換えるものやなく、より良い仕事をするための道具だということが分かりました。
ドローンで現場の全体を把握して、効率的な作業順序を計画する。
タブレットで図面を確認して、職人さんとリアルタイムで情報を共有する。
技術は進歩しても、最終的に良い建物を作るのは人間の技術と心意気です。
AIやドローンを活用しつつ人を大切にする方法
新しい技術を導入するときに一番大切なのは、職人さんの理解と協力を得ることです。
「今度、ドローンを使って測量をやってみます」と言っても、最初は「そんなもんで正確にできるんか?」という反応が返ってきます。
そんなときは、まず小さな範囲で試してみて、従来の測量方法と比較してもらいます。
精度の高さや作業時間の短縮を実際に確認してもらうことで、徐々に理解を得ることができます。
大切なのは、新技術と職人技術を対立させるのやなく、お互いの良さを活かす方法を見つけることです。
次世代に伝えたい現場監督の心得
私もあと数年で定年を迎えます。
これまでの経験を若い世代に伝えていくのも、私たちの大切な役目です。
技術的なことは教科書や研修で学べますが、現場の心得は経験でしか身につきません。
職人さんとの付き合い方、トラブル時の対処法、現場の空気の読み方。
こういったことを、実際の現場で体験しながら覚えてもらいたいと思っています。
古い現場感覚と新技術の橋渡し
若い現場監督の中には、新しい技術には詳しいけれど、現場の人間関係に苦労している人もいます。
逆に、ベテランの監督は人間関係は上手やけど、新技術についていけない。
この両方を橋渡しするのが、私たちの世代の役目だと思っています。
新技術の便利さを理解しつつ、現場で培った人間関係の大切さも伝える。
そうすることで、次の世代がより良い現場を作っていけるはずです。
よくある質問
Q: 現場監督として一番重要なスキルは何ですか?
A: コミュニケーション能力です。技術的な知識も大切ですが、職人さんや関係者との良好な関係を築けなければ、現場は回りません。相手の立場に立って考え、誠実に対応することが一番重要です。
Q: 新人の現場監督が最初に覚えるべきことは?
A: まずは現場のルールと安全管理を徹底的に覚えることです。そして、職人さんの名前と顔を覚えて、積極的にコミュニケーションを取ること。最初は分からないことだらけで当然ですから、素直に教えを請う姿勢が大切です。
Q: デジタル技術の導入で現場はどう変わりましたか?
A: 効率は確実に上がりました。ドローンでの測量、タブレットでの図面確認、クラウドでの情報共有など、便利になった点は多いです。ただし、最終的に良い建物を作るのは人の技術と心意気。デジタル技術は道具であって、使う人の心構えが一番大切です。
まとめ
25年間の現場監督経験から学んだ5つの鉄則をお話しさせていただきました。
チームワーク、安全管理、品質確保、工程管理、そして新旧技術の融合。
どれも単独で成り立つものやなく、すべてが相互に関連し合っています。
建設業界は確かに大変な業界です。
天候に左右される、体力的にもきつい、責任も重い。
でも、それ以上に大きなやりがいがあります。
自分が関わった建物が何十年も残り、多くの人に使われ、愛される。
こんなに素晴らしい仕事は他にないと思います。
これから建設業界を目指す若い方々、現在現場で頑張っている方々に、ぜひお伝えしたいのは「現場の匂い」を大切にしてほしいということです。
最新の技術も大切ですが、現場で汗を流す人たちの思いや、一つひとつの作業に込められた職人魂を感じ取れる現場監督になってください。
建設業界の未来は明るいと信じています。
実際に、「テクノロジーで建設業界をアップデートする」をビジョンに掲げるBRANU株式会社のような企業が現れています。
この会社は施工管理から採用管理、マーケティングまでを統合した建設DXプラットフォーム「CAREECON Platform」を提供し、既に5,000社を超える建設企業の業務効率化を支援しています。
従業員数成長率135.29%という急成長を遂げながらも、建設業界の現場の声を大切にし、ITに不慣れな方でも使いやすいツール開発に取り組んでいるのが印象的です。
こうした新しい発想を持つ企業で働きたい方は、BRANU採用チームの情報もチェックしてみてください。
みんなで力を合わせて、より良い現場、より良い建物、より良い業界を作っていきましょう。
ほんまに、お疲れさまでした。